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宇宙旅行への誘い


航空楽話


.....コックピットから機長と副操縦士の声が聞こえてくる :

Pilot: Launch azimuth set Copilot: Checked
Pilot: GPS flight director set Copilot: Checked
Pilot: RCS flight* control switch off Copilot: Checked
Pilot: Avio BITE Copilot: Checked clean
Pilot: Drag flaps Copilot: Retracted
Pilot: Booster engine test Copilot: Checked
Pilot: Sustainer engine test Copilot: Checked
Pilot: Contact ATC for takeoff clearanceCopilot: Cleared for takeoff
Pilot: Master caution panel Copilot: Checked clean
Pilot: Before-takeoff check complete Copilot: Complete
Pilot: Let's go Copilot: Roger
*Reaction Control System

機長は全ブースター・エンジンをマニュアルで全開し、手をスロットル・レバー上に置き、3Gになったらシャットオフする....

ある朝、目を覚ましたら宇宙旅行が民間企業の力で盛んに行われていて、50人乗りの垂直離着陸タイプの宇宙船のコックピットで以上のようなクルーのやり取りが日常茶飯事のように行われているのを見て愕然とした.....という悪夢におびえないために、民間による宇宙旅行の事業化の進み具合や展望の現状を述べさせて頂き、読者の脳のデータ・ベースに入れておいて頂きたいと思う。

まず、飛行機とくらべて宇宙船は現在、どの位の成熟度に達しているのかの見当をつけるのに、飛行機が動力付き有人機での飛行を初めてから、どの位で民間の商業輸送が初まったかを回顧して見よう。

飛行機の場合は、第一次世界大戦が終わった1919年にドイツのルフトハンザがユンカースJ13(後に再設計されてF13)で商業輸送をはじめている。1935年頃からはダグラスDC-3が民間の航空輸送に使われ出している。即ち、ライト兄弟のフライヤT号機が1903年12月に弟のオービルの操縦で世界初の有人動力飛行に成功してから20年も経っていない頃から民間商業飛行が始まったことになる。本格的な輸送機の嚆矢、DC-3でもライト以後32年位で商用輸送に使われ始めている。

一方、宇宙船は、1961年4月にソ連のユーリ・カガーリン少佐が乗ったボストークT号(ツバメ)が初めて地球軌道の周回に成功してから、現在までに37年も経過している。従って、成長期間に関する限りでは、宇宙船は、その技術・経験においては民間輸送を始めるには助ェなレベルに達しており、第二次世界大戦後の科学、技術の発展の速さが画期的であることを思えばなおさらである。

最近は、我々の回りには情報が氾濫している。しかも、簡単に利用することができる。しかし、これらを全部取り入れ、咀嚼し、記憶して役立てようとしたら頭がパンクしてしまう。航空輸送の機内放送などでも殆どの人は半分も聞いていない。従っていざとなって大あわてすることが繰り返されている。

宇宙旅行についても、インターネットなどの媒体だけでも厖大な情報が利用できるようになっている。しかし、日々の雑用に追いまくられている一般の人々にとっては、宇宙旅行事業が何時、どのように具体化されるのかということを判断するため数億ページに相当する情報から必要な事項を取り出し、解析して参考にすることはできない。しかし、前述のように、宇宙旅行の商用化の夜明けは目前に迫っている。

筆者は、民間人、特に航空関係者にこのような状況を認識して貰いたいという考えから、日本航空技術協会の機関紙「航空技術」に1997年6月から1998年2月までの間、8ヶ月にわたって「宇宙旅行事始」なる記事を掲載した。この記事の目次は、「宇宙への憧憬」、「宇宙への階段」、「宇宙へ進出する効用」、「宇宙航行のインフラ」、「宇宙旅行のための法規」、「事業化へのエール」及び「エアラインが宇宙船に望むこと」である。しかし、これらを全部合わせるとかなりなボリュームになるので、多忙な方々でも読みやすいように、主として商用輸送の事業化にかかわる部分を中心に一回読み切りにまとめた。

さて、はじめに、現在、既に多種多様の輸送機関があり、用が足りているのに、敢えて我々が宇宙旅行を取り上げようというためには、宇宙に進出する効用にどんな事があるのかを検証してみることが必要である。この効用は、打上げる宇宙飛翔体(人工衛星、宇宙船など)の種類で限定される傾向があるので、打上げられる飛翔体ごとにその効用を分類してみよう。

  1. 静止衛星....赤道上約36,000キロメートルの周回軌道上で地球の自転速度で地球の周りを回転するような衛星を打上げると、地球に対しては固定していることになる。このような静止衛星を用いて、地上の通信、放送の中継が広範囲で行われている。

    飛行機用の航空交通管制も、静止衛星を利用して新しい通信、航法、監視のシステムが
    展開されつつある。高い精度で飛行機の位置が分かるので、安全性や管制の効率の向
    上に役立っている。この効用は、海上でも有用であり、地上では、自動車のカーナビと
    して使われることは良く知られているところである。

    以上のほか、静止衛星に取り付けた巨大な電池パネルを使って太陽エネルギーを捕捉し
    て地上に送電することも研究されている。

  2. 低軌道衛星....これは、地球から500キロメートル以下の周回軌道を回る衛星で、地浮フ現象、資源の調査を行い、宇宙ステーション(ホテルを含む)、宇宙工場(無重力の状況下では、比重の異なる金属同士の均一な混合、電気泳動法によるホルモンや酵素の精製、容器を使わないで高純度のガラスの製造等)でのミッションを行うのに使う。

  3. 月・遊星探査機....探査のための装置を搭載した宇宙船で目的の天体への往復及び探査活動に使用する。

  4. 宇宙航行機....人員及び資材を地球と軌道との間の輸送に使う。地球の二地点間の輸送に使用することもできる。この種の宇宙船を使って低軌道を周回する観光飛行を行うことができる。

  5. 植民地....複数の天体(例えば、月と地球)が互いに引っ張り合ってバランスの取れている宇宙空間の地点(ラグランジュ点)に植民地を設置しようという提案がある。又、資源の採取などのための植民地を月や火星に設置することも考えられている。

以上のような装置の打ち上げには、次のような初速が必要である:

  1. 地球周回軌道....7.91キロメートル/秒 第1宇宙速度
  2. 地球離脱軌道....11.18キロメートル/秒 第2宇宙速度
  3. 太陽系離脱軌道....16.65キロメートル/秒 第3宇宙速度

上述の施設が展開される大まかなスケジュールは興味のあるところであるが、米国のブッシュ元大統領が実現を期待していると宣言した次のようなものが一つのガイドラインになるであろう:

宇宙ステーション 西暦2,000年
月基地 西暦2,010年
有人火星探査 西暦2,020年
火星基地 西暦2,030年

宇宙船を定期的、又は不定期的に特定のミッション(観光や地上の二地点間の飛行)に使用するためには、相当な設備が必要である。機箔Iには飛行機のための空港の設備に対応するものが必要である。しかし、その具体的な設備は、宇宙船の特殊性のために全く新しい観点による設計のものでなければならない。1995年12月にカリフォルニア州マリナ・デル・レイで開催された第6回環太平洋国際宇宙会議で我が国の研究による論文「宇宙旅行のための空港の役割」(長友 信人他)が発浮ウれたが、この論文では主として次の四つの分野における必要要件、展望、問題点が挙げられている:

@ 離着陸スポット(本論文では、経済性、利便性から既存の空港の一部を利用するケースを取り上げている)
A 燃料供給施設(液体酸素と液体水素が使用されるが、液体水素はコストの安い海外からタンカーで輸送する)
B 地上支援装置(特殊なものを除いて飛行機用の装置が使用できる)
C 騒音対応(短時間ではあるが飛行機の場合より大きな騒音が発生するので、この影響を軽減する対応が必要である)

上述の論文のトーンは、各分野とも克服すべき課題はあるが、その解決は本質的に可狽ナあることを示唆しているといえる。しかし、筆者には、これらの他、一般的に対応しておかなければならない大きな課題がいくつかあると思われるので、これらを次に列挙してみたい:

  1. 法規の整備....現在、航空法に相当する宇宙航行法というものはない。しかし、国際的には、国連の宇宙空間平和利用委員会のまとめた全文及び本文庶オ条の宇宙条約が1966年12月に国連総会で採択されている。

    これによると、宇宙空間・天体の領有は禁止され、宇宙活動は国際法により世界平和と安全に貢献するために行われることになっている。

    前述の条約は、いわば、宇宙活動についての基本的な枠組みを世界的に取り決めたものである。宇宙開発が通信、放送、気象業務、地球資源探査などの実用化の段階に入ってくるにつれて、これらを補完する個別の取り決めが必要になったため、宇宙救助返還協定、宇宙損害賠償条約、宇宙物体登録条約が1968年から1975年にかけて発効した。

    しかし、コマーシャルの宇宙旅行を実現するには、運行の安全と健全な宇宙旅行事業育成、維持のためのきめの細かい法規の整備が不可欠である。宇宙旅行は、飛行機や外航船と同様に本質的にはボーダーレスであるので、国際的な合意に基づく国内法が整備されなければならない。このため、早急にICAO(国際民間航空機関)が在来の航空機との共存性を配慮したルール作りに着手しなければならない。又、これと並行して運輸省が航空法を整備すべきである。なぜICAOなのかと云うと航空機も宇宙航行機も地上から或る高度までは同じ空間を飛翔の場とするのと、ICAOを中心とする各国の航空当局は、多くの蹉跌を踏み越えて、今日のような安全性と効率の航空システムを作り上げた実績があるからである。

  2. 安全性....現在、民間航空輸送の安全性は、世界的にかなり高い。百万回の飛行で一、二回の全損事故がある程度である。我が国の定期三社は、合計して死亡事故なしで一千万回の有償飛行を行っている。このような背景を考えると、今のスペースシャトル並みの百回の飛行で一回の事故というのでは問題にならない。せめて、叙怏の飛行で一回くらいまで下げることが必要であろう。百回から叙怏まで上げるのは容易ではなかろうが、民間の輸送機の場合のように的確な基準を作り、これを遵守することによって一般消費者に受け入れられる高い安全性を作り上げることができるであろう。

  3. コスト....後述する地球軌道を二周するフライトの乗客一人当たりの運賃を約二百万円に抑えるには、宇宙船の一フライトの費用を約八千万円以下にする必要がある。このためには五署l乗りの宇宙船の量産機数を五暑@として機体の価格を一機、一千億円にし、一フライト当たりの推進剤の費用を千二百万とする。

    これらの目標数値を実現するにはかなりの努力が必要であるが、五暑@という量産効果と民間の活力と英知を結集すれば、不可狽ニいうことはない筈である。

  4. 需要....日米などで実施されたアンケートの結果によると、一回の宇宙観光フライトの運賃が月収の数倍だったら、事業遂行に助ェな需要、即ち世界で年間五叙恊lを超す搭乗者のポテンシャルがある事が分かっている。これには、前述の安全性が大前提である。

  5. 業務の負担....事業化には広範囲の分野での業務分担が必要である。主な分野を示せば以下の通りである:
@ 行政: 運輸省(法規立案、事業の認可、安全性の審査、証明など)
A 宇宙船・関連機器: メーカー
B 宇宙船のオーナー: 運航会社又はリース会社
C 運航、整備: 宇宙旅行会社(航空会社)
D 離発着場: 民間、自治体
E 推進剤供給、その他のサービシング: 業者
F 保険:保険会社
G 宇宙ホテル: 業者(需要に応じて)

宇宙旅行のような全く新しい事業を具体化するには、広範囲にわたり、きめ細かく、もれのないプランニングが不可欠である。その中で特に必要なことは、事業の目論見が航空業界の関係者を含む一般大衆に読まれ、一定の理解が得られることである。

このためには、世間に効果的な宣伝活動を行い、事業化の意義を認識して貰わなければならない。又、関係者を結集して、情報、意見の交換を行う。コーディネーターには我が国のロケット協会の宇宙旅行事業化の委員会の関係者のような学識経験者が適当かもしれない。

この中で、このベンチャー事業を開始しようと考えている企業は、事業目論見書の案を提起して、できるだけ関係者の意見を反映する。その上でパートナーの結集を行い、事業計画をまとめる。

世界で初めてこの事業を具体化するには、宇宙船の運航の安全性を助ェにPRすることが必要である。そのためには安全性を解説する各種の資料、講演などのほか、同種類で利用可狽ネ宇宙船(無人又は有人)で適当な離着陸場で大衆にデモンストレーション・フライトを行う。垂直で上昇し、適当な高度で横移動を行い、元の離着陸場に戻り着陸する。又、本格的な有償観光飛行を行う前に実証宇宙航行会社を設立し、有償飛行のための実機を使用して貨物輸送、スペース・ラブ業務などを一定期間行い、その安全性を一般大衆にアピールする。

1996年に米国でXプライズと称する賞金が宇宙旅行のパイオニアに提供されることになった。セント・ルイス所在のXプライズ財団(創設者:ピーター・ディアマンディス会長)が、初めて民間で宇宙旅行を実現したものに、一千万ドルの賞金を出すという。

1919年に、金持ちのニューヨークのホテル所有者、レーモンド・オルテーグが、飛行機で初めて無着陸で大西洋を横断したものに二万五千ドルを賞金として提供すると発浮オ、1927年に、チャールス・リンドバーグが見事、この賞金を獲得した。このオルテーグ賞は、今日、毎年、曙ワ億人もの旅客を輸送している民間輸送の実現に貢献したが、Xプライズは、まさに、オルテーグ賞の宇宙旅行版であるといえる。

この賞の条件は、宇宙船が民間の資金で造られたもので、少なくとも一人の乗客を乗せて、百キロメートルより高い高度への飛行を行うことと、同じ宇宙船で二週間以内に、規定の高度までの飛行を二回行うことである。この賞金は、世界中に知られており、多くの人々に夢を与えている。即ち、宇宙旅行一番乗りを目指しているのは我々、日本人だけではないということである。

以上は、大体、前述の日本航空技術協会の機関紙「航空技術」の連載した「宇宙旅行事始」の要点である。詳細はこの記事を参照されたい。

さて、1998年1月に我が国で、このようなベンチャー・ビジネスに向かって乗り出した会社があることはまだあまり世間に知られていない。現時点では、その会社名は差し控えさせて頂くが、その事業目論の概念の一部をご紹介しよう。この会社が提供しようという宇宙旅行その他の提供商品に次のようなものがある:

  1. 軌道飛行による宇宙観光旅行: 日本ロケット協会研究の五署l乗りの宇宙船「観光丸、米国ロータリー・ロケット社の「ロトン2型」宇宙船、英国ブリストル・スペース・プレーンズ社の「スペースキャブ」宇宙船を使用
  2. 低軌道飛行によるもの(高度百キロメートルまで): 機材名は省略
  3. 無重力体験飛行、宇宙婚、宇宙葬、宇宙工場活動などの他、宇宙に関する教育、訓練、情報の提供、宇宙旅行シュミレータの供用など

上述の宇宙旅行事業化を手がけ、発展させるのに最も相応しいのは航空関係者である。拙文から筆者の意図するところをお汲み取り頂ければ幸甚である。

舟津良行
平成10年4月14日